透明なクジラ

長すぎてTwitterに書けないこととか。

人生で初めてライブに行った話

 

 ライブハウスどころか、そもそもライブにすら行ったことがなかった。

 最近になるまで音楽をそれほど聴く人間ではなかったというのもあるし、正直映像とか見る限り自分にはあんなにはしゃぐことはできなさそうだし家で一人でCD聴いてるほうがマシじゃないかと思っていたのも大きい。

 だがここ一年くらい音楽をまあまあ聴くようになって、いつまでもそうしている訳にはいかないなと痛感した。

 本日訪れたライブ、つまり人生で初めて生で見たバンドはナンバーガールになるわけだが、このバンドは2002年に一度解散して、今日になるまで活動することはなかった。流石に俺が生まれる前より、というほど若くはないが、おそらく物心ついた頃には既に解散していたのだ。

 他にもここ一年でピンと来たバンドとして、スーパーカーハヌマーンandymoriが挙げられるが、これらも全て解散している。最近になってきのこ帝国も活動休止を発表してしまったので、ついに見ることは叶わなかった。

 好きなバンドが聴き始めた頃には既に解散しているという経験をいくつも味わって、現在活動しているバンドだっていつ急に解散するかわからないんだなと、当たり前の事実に気がついた。今のうちに見ておかなければ、後になって後悔しても遅いのだと思っていた矢先に、ナンバーガールが活動再開を発表した。

 その日に公開されたのはライジングサンロックフェスティバルに出場するという情報のみだったが、後日ツアーで日比谷野音でのライブが決定したので申し込んだ。落ちた。予想はしていたけど倍率が高すぎる。そのまた後日に今度は新宿ロフトでライブが行われることが発表されたが、キャパを調べたら日比谷野音の六分の一ほど、約500席しかないとのことだった。さすがにこれは当選しないだろうとダメ元で申し込んだら、一ヶ月後にチケットが当たったとメールが来たので死ぬほど驚いた。嬉しさよりも先に困惑が襲ってきて、ライブ当日になるまで正直まるで現実感がなかった。

 何より、ナンバガ復活を何年も心待ちにしてた人もたくさんいるのに、去年から聴き始めた程度の俺が当たってしまってなんだか引け目のようなものを感じていた。まあそうは言っても当たってしまったのだから仕方ないと自分に言い聞かせても、いつ刺されるか気が気じゃない。これは今でもだが。

 

 現実感がないとは言え、思えば俺は案外冷静に準備をしていた。まず身分証明書がなかったのでわざわざ勉強して原付の免許を取りに行った。それからメガネも度が合わないし形も歪んでいたので新調した。前日には、はじめてのライブハウスに死ぬほどビビっていたので、「ライブハウス はじめて」で検索してヒットした記事を片っ端から読んだ。当日にも迷子になる可能性と物販の列にいつ頃から並べばいいのかわからなかったので12:30には新宿駅に到着したが、15:30からの物販は30分前に並んでも余裕だったので正直やりすぎだと思う。というかチケット持ってる人しか買えないシステムだったから、どう考えても何時間も前に行く必要はなかった。

 そんなわけで荷物をライブハウス前のロッカーに入れて会場待ちと思われる列に並んだが、緊張をほぐしつつ時間を潰すために新宿を歩きまわっていた俺の足はこの時点で限界が来ていた。これライブ始まる頃には立てなくなってるんじゃないかな、という不安さえ抱いたほどだ。大人しく喫茶店で待機してればよかったと後悔したが最早どうしようもないので案内されるままに会場に入る。ちなみに入場後もライブ開始まで体感30分くらい(腕時計は外していたし、スマホも電源をすぐに切ってしまったので正確な時間はわからない)立たされて本気で死ぬかと思った。

 断続的な「本日はソールドアウト公演になります。開演時間が近づきましたら大変混み合いますので、できるだけ前にお進みください。また、ダイブやモッシュといった危険行為はすべて禁止になっております」というアナウンスを聞きながら俺は思い出した。あれはたしか高校一年生の頃だ。文化祭で学生がライブをやっているのを体育館の後ろの方でぼんやり見ていたら、いつのまにか現れていた大学生が客席を仕切りだして、サークルモッシュを始めた。なぜだか俺もそれに巻き込まれたがあれは痛いし怖いしで地獄のような体験だった。大学生なんて高校一年生の当時から見れば皆ヤンキーにしか見えないからマジで怖いんだよ。

 そんなわけでライブというのは人生のプレイングが上手い人間が行くところなんだろうなという偏見があった。ツイッターを始めてからはどうやらそれは誤解のようだと気がついたが、それでも油断はできない。今日訪れる人々も全員怖い兄ちゃんだったらどうしようと昨日まで怯えていたが、いざ会場についてみると全然そんなことはなくて少し安心した。むしろ俺みたいなメガネかけてひょろっとしてるオタクっぽい人が多くて親近感が湧く。みんな一人できてるからずっとスマホいじるか本読むかして時間潰してるし。

 

 さて、スタッフが楽器の調子を確認しはじめ、もうそろそろ始まるというアナウンスがかかったあとはひたすらの静寂だった。SEがかかってメンバーが入場してきた瞬間、俺はめちゃくちゃ驚いた。さっきまであんなに大人しそうだった客たちが、まるで暴徒と言わんばかりに暴れはじめたからだ。数秒後に我に返ってステージを見たら本当にナンバーガールが存在していて、気づけば俺もその暴動に加わっていた。

 一曲目は鉄風鋭くなって。自我とか理性とか、そういうものがいつのまにか吹き飛んでいて、ただ訳も分からないまま飛び跳ねていた。高くジャンプするたびにメンバーの顔が見えて、その度になんか泣きそうになる。あと「かぜええええええ!」って叫ぶのめちゃくちゃ気持ちいいな。

 話に聞いてはいたけど、ライブハウスの音がめちゃくちゃうるさいってのは本当だった。今まであんな爆音で音楽を聴いたことがない。せいぜいが俺の耳を気づかってスマホが忠告してくる程度まで音量を上げる程度だったが、比べものにならないほど音がデカかった。なんだよ、今まで聴いてたライブCDってライブと全然別物じゃん。未だに耳鳴りが止まないんだけど大丈夫なのかこれ。

 それから、どのサイトを見ても「どんなに普段汗をかかない人でも、絶対に汗だくになるからタオルを持っていけ」というアドバイスが載っていたが、その通りだった。いつのまにかありえない量の汗をかいていて、自分の中にそれだけの水分が入っていたことに驚いたのを覚えている。脱水症状にならないか本気で心配になったが、もう死んでもいいくらいのテンションだったのでそのうち気にならなくなった。

 ツイッターでセトリが回っていたからそれを見た人も多いと思うけど、本当に選曲が良くて息つく間もなかった。極め付きが四曲目のomoide in my head。CDで何度も聴いては痺れていた「福岡市博多区から参りました、ナンバーガールです。ドラムス、アヒトイナザワ」の声で始まる演奏に、今自分が立ち会っているのだと思うと涙が流れていて、唇は汗と混ざってめちゃくちゃ塩の味がした。イントロの勢いが最高に高まった時に客が「オイ!」って叫ぶアレを、まさか実際にできる日が来るなんて思ってなかったから本当に嬉しかった。さっきも言ったようにライブが始まる前はめちゃくちゃ大人しそうだった客が、曲が流れるや否やこんなにも盛り上がってると思うと感慨深いものがあった。それまで俺は「一体感」という言葉に眉をひそめて生きてきた。今まで「みんなで同じ行動をするというそれ自体を楽しむ」という意味でしか俺はその言葉を知らなかったからだ。だが、今日のそれは今までとはまるで違うものだった。みんな自分が思うままに勝手に動いていて、だけれどなぜか一つになっているような気がした。一体感というのはみんなで同じことをした時に感じるのではなく、それぞれに違う行動をしていても衝動に突き動かされているという一点は共通している時に感じるものなのだなと知った。かつての文化祭での経験とは違って、他人がぶつかってこようが、まるで気にならなかった。

 その直後にZEGEN VS UNDERCOVERを持ってきたり、透明少女の次に水色革命を演奏したりと、こちらの感情のキャパシティを崩壊させる気満々で、気づけば締めのIGGY POP FANCLUBの演奏が終わって、ライブは一段落ついていた。アンコールに応える一曲目は、まさかの再びomoide in my head。一度演奏したからもうやることはないだろうと、おそらくあの場にいた誰もが思っていたのではないか。心なしか、さっきよりも観客の勢いがより激しかったように思う。

 このライブで何より驚いたのが、その次の曲が初期の方のトランポリンガールだったことだ。まさか流れるとは露ほども思ってなかったので本当にビックリしたし、これ以上ないほどにテンションが上がってひたすらに飛び跳ねていた。そのままあっという間にラストのI don't knowが終わって、90分経ったというのが信じられなかった。体感では30分くらいしかない。

 

 ドリンクを受け取り地上に出るとそこはいつもの歌舞伎町の街並みが広がっていて、たくさんの人が行き交っている。きっとライブが行われていた時も同じような風景で、その下ではあんな鮮烈な演奏が繰り広げられていたと思うと、非現実的すぎてなんだか夢を見ていたような気分になった。脱水状態で呆然となりながら飲んだレモンソーダは格別に美味くて、いつもは「めちゃくちゃ汚ねえなあ」と感じていた新宿駅前の景色が今日はなんだか綺麗に見えたから不思議だ。